GUESTS COLUMN / ゲストコラム

各専門分野のゲストから寄せられたコラムをご紹介します

【01】海の京都、陸のオホーツク

マーケティングプランナー 速水 瞬


 
 
 以前、北見市で講演をさせていただく機会があり、地域ブランドをテーマとしてお話させていただいた。北海道が全国有数の地域ブランド力を有していることは間違いない。総合振興局・振興局レベルでブランド力をみていくと、まず、十勝のブランドイメージが大きい。チーズ、小豆などは全国のスーパー、百貨店等で、十勝の名を冠した商品が売られている。従来から、小豆は全国的に有名であったが、明治北海道十勝チーズが「故郷 十勝を応援する」というコンセプト(※1)で、十勝出身のDREAMS COME TRUEの吉田美和さんを起用し、十勝で撮影したテレビCM「明治北海道十勝 ブランド宣言篇」を2008年に全国で放送した効果も大きい。従来、北海道のチーズというと、雪印メグミルクの商品イメージが強かった。これを意識して、蓄積の大きい雪印の北海道イメージとまったく同じ土俵ではなく、酪農が盛んで、自然の多い十勝イメージを前面に出したマーケティング戦略は優れていた。(※2)日高ブランドも昆布、ししゃもなど海産物に関しては、全国有数の存在である。また、オホーツクの知名度は、全国的に非常に高い。カタカナ表記で、エキゾチックなイメージも持たれている。(※3)


 ただ、オホーツクには、基本的に海のイメージがある。スーパーで、オホーツクの名が記載されるのは、カニが多いが、あるメーカーのかまぼこの場合もある。しかし、道内に住んでいれば、オホーツク総合振興局は、陸地にも領域が広がっており、薄荷や玉ねぎなどが特産物であることは知っている。

 道外においては、日本地図の北に大きく広がるオホーツク海の印象が強い。さらに以前、タレントの斉藤清六が「オホーツク」を連呼した一正蒲鉾のCMの影響もあってか、ほぼ海のイメージでとらえられる。海産物にとっては、道外市場において、このイメージは有利に働く。しかし、知名度の高いオホーツクブランドであっても、農産物とは結び付きにくく、活かすことは難しい。
 
 生活者は、必ずしも事実ではなく、パーセプション(認識)によって行動する。(※4)そのようなパーセプションがあることには、理由があり、根強く浸透していることもある。パーセプションを変えるための施策を打つ必要がある。
 
 海産物以外にも優れた特産品のあるオホーツクブランドを他の産物や観光に有効に使いたい。北見での講演では、「陸のオホーツク」というコンセプトを提示させていただいた。強く賛同を示す方もいたが、あまりピンと来ていない方もいたように思う。

 近年、「海の京都」という表現を目にする。京都府への観光客は増え続けており、2017年の観光客数は約8687万人、観光消費額は5年連続で過去最高を更新し、約1兆1887億円となった。上昇傾向はまだ続く傾向にある。しかし、メディアで取り上げられるのは、京都市内と歴史資産のある宇治市などに限られる傾向にある。京都という地名と海は、イメージとして遠いポジションに位置している。とはいえ、京都府北部(宮津市・京丹後市・舞鶴市・福知山市・綾部市・伊根町・与謝野町)は海に面しており、生活者のパーセプションを変える必要に迫られていた。平成27年、京都縦貫自動車道の全線開通を控え、その前に多くの観光客を呼び込むために、京都府がまとめ役となり、これらの地域を「海の京都」と位置付け、競争力ある観光圏となることを目指すこととなった。このコンセプトは、少しずつ浸透している。ブランド力の高い京都という地名においても、すべてが語られるわけではなく、限定された一定のイメージがある。その中には、海岸部のイメージ連想は入っていない。「海の京都」というキャッチーな表現を京都府が発信する必要性があった。京都の知名度の高さ、イメージの良さは絶大なものがあり、通常連想されない「海」という言葉を付加した意外性が記憶の引っ掛かりとなったようである。

 「海の京都」キャンペーンは、京都の知名度の高さ、イメージの良さに乗ったものであり、京都ブランドの強さを活用している。オホーツクの知名度の高さを想うとき、「陸のオホーツク」というコンセプトを活かすことができれば、観光振興や特産物の売り上げに貢献していくことができるのではないか。検討する価値がある。
 


  • ※1 株式会社明治ホームページ 明治乳業2008.9.3プレスリリース 
  • ※2 十勝に工場を持つ花畑牧場が新千歳空港などで、カチョカヴァロを売り出し、北海道土産として人気を呼ぶこととなった。 
  • ※3 石狩も鮭や石狩鍋などと結びつき、ブランド力は高いと思われる。ただ、北海道のブランド力が高いからといって、すべての総合振興局、振興局のブランドイメージが全国的に高いわけではなく、その中で格差が生じている。 
  • ※4 静岡県の浜名湖へ旅行すると、うなぎを食べたくなる。地元の特産物という意識があるからだ。ただ、静岡県産ウナギは1982(昭和57)年を境にトップの座を退いており、今、浜名湖で食するうなぎには、鹿児島、宮崎産が多くなりつつある。これらの事実は今まであまりPRされてきていないので、南九州がうなぎの特産物という生活者のインプットがされていない。生活者の意識上は、今でも浜名湖周辺ではうなぎが第一の名物なのである。東国原氏は宮崎県知事時代、地元のうなぎのおいしさを盛んにPRされていた。また、チューリップ(切り花)の生産地のトップは新潟県なのだが、調査を行うと、富山と答える方が多い。この状況を打開するべく、新潟市では市長が先頭に立って、東京でチューリップを配布した。他にも、生活者のパーセプションが事実と一致していない例は少なくない。